日本と世界の鍼灸

■ 日本の鍼灸

日本では、遣隋使や遣唐使の伝来とともに伝わったと言われています。
現代に伝わる歴史は15世紀末、明留学をした田代三喜に始まります。田代三喜から曲直瀬道山が李朱医学を学び、「後世派」が始まりました。
江戸時代に入り、陰陽五行説に基づく後世派の医学を観念的であると批判して、実証的な医学として「傷寒雑病論」をバイブルとした「古方派」が誕生します。
古方派は江戸中期に、臨床至上主義の吉益東洞と人体解剖を重視した山脇東洋の2派に分裂。吉益東洞は「万病一毒説」を唱え、「毒によって毒を責める」という方針で、副作用や体力の衰弱を無視し、生死は天にまかせ、医の感知するところではないという方針でした。一方、山脇東洋は、オランダ医学への接近をはかり、杉田玄白らによる「解体新書」の訳出をしました。鍼灸治療と西洋医学の出会いです。そして、「後世派」と「古方派」の中間をとった「折衷派」ができました。
この構図は、今でもあまり変わりないかもしれませんので、現代の鍼灸事情の項目でも使用しますので、ちょっと頭の片隅に入れておいて下さい。

明治維新後の明治28年に開業試験科目は西洋医学に限るという法案が可決され、鍼灸医学は冬の時代に入ります。

昭和に入ってから占領軍総司令部(GHQ)の政策案のなかに鍼灸禁止令がありました。これを知った京都大学生理学教室の石川日出鶴丸教授、笹川久吾教授らはGHQ関係者に接触し、鍼灸は生理学からみて学問的に根拠ある医療であることを説明し、実際に鍼治療を関係者に体験させ、鍼灸禁止令を撤回させました。

昭和58年に、鍼灸を専門に研究する4年制大学である明治鍼灸大学が開学し、学際的な研究が行われています。
昭和63年「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」の改正により、知事免許であった資格が厚生労働大臣認可の国家資格となり現在に至ります。

これから21世紀に向けて、この古くて新しい鍼灸医学の研究が求められています。

■ 世界の鍼灸

アメリカでは1,000から1,500万人が、痛みの緩和から麻薬中毒からの脱却、あげくはAIDS治療にいたるまで鍼治療を用いています。

欧米で大きく鍼灸医学が取り上げられたのは、1972年2月のアメリカ、ニクソン大統領の中国訪問のときです。『鍼麻酔』が大きくマスコミに取り上げられました。
鍼麻酔は、1958年中国での鍼麻酔による手術成功例の報告に始まります。つまり、外科手術の際の麻酔代わりとして鍼を使用しました。方法はたくさんありますが、一般的には鍼を刺入し(外科手術場所により、刺入部位は違う)、電気を流します。
その後、1970年代には,鍼麻酔の本態が、生体内モルヒネ様物質に起因するものであることが示唆されています。
しかし、メカニズムの解明には至っていません。
西洋医学的に鍼灸医学の効果機序を解明説明しようとする新しい流れの始まりです。現代版「折衷派」というところでしょうか?この現代版「折衷派」の流れとして、鍼の通電治療があります。西洋医学的(整形外科的)な診断の元、筋肉に鍼を刺入し通電するという方法です。パルス療法などと呼ばれています。
しかし、これは、西洋医学的な判断の上に、鍼という物理刺激を使用している「物理療法」の一種のような趣です。

鍼灸医学のメカニズムを説明する学説は、この生体内モルヒネ様物質に起因するものの他にも1965年にメルザック・ウオールらの学説で「ゲートコントロール説」というのがあります。
「ゲートコントロール説」は、体表や内臓から来る雑然とした刺激が脊髄後角の共通伝達細胞によって整理され、その中のあるものが中枢に信号を送り、感覚として感知される。しかし、同じ場所に信号が集まるときにも、太い繊維と細い繊維とが同時に入り、その一方に信号の伝達を妨げるような刺激を与えると疼痛を抑制することができる。と説明しています。

また、神経学的理論があります。これは、神経系統は鎮痛作用を生み出す物質的基盤と考える説です。
鍼治療の効果として最初にあげられるのが、痛みのコントロールです。鍼治療のツボには、周辺部より多くの神経末端が集まっていることは、研究によって明らかとなっています。特定の部分に鍼を刺すことで神経系に影響を与え、体内でエンドルフィンやエンケファリンのように鎮静作用を持つ化学物質が生産されるのを促進し、セロトニンなどの脳内ホルモンを生成する、とする研究もいくつもあります。また、鍼は痛みの刺激が神経中枢に伝達されるのを阻害するのではないかと示唆する理論もあります。こうした化学刺激や神経伝達阻害の理論は経験論的に試行可能です。これらは鍼の効果を、人体の解剖学的、神経科学的構造に関する西洋化学の見地から述べようとしたものです。

1996年3月、連邦食品医薬品局(FDA)は鍼治療に用いる鍼を、訓練を受けたプロフェッショナルが用いる汎用医療器具に指定しました。それまでは、鍼治療の鍼は、安全性と有効性が不明確なため、公的に認められた研究プロジェクトでのみ用いられる器具とされていました。しかし、1996年の新しい取り決めによって、鍼治療と鍼を使った研究がもっと行なわれることになるでしょう。また、保険会社はさまざまな疾患に対して鍼治療という医療行為が行なわれても、保険料の支払が可能になってきています。国立衛生研究所 代替療法局 (メリーランド州ベセスダ)のウェイン・B・ジョナス局長は、
『鍼治療用針の分類変更は “非常に賢明かつ論理的決定”である』
と述べています。代替療法局は鍼治療の効果に関する新規の研究に非常に熱心で、これからが鍼治療の研究が充実されていくでしょう。

そんな世界的に注目を浴び始めている古くて新しい鍼灸医学ですが、西洋医学的背景で鍼灸医学の発生機序の研究も始まったばかりです。更に鍼灸による効果で西洋医学的に証明されているものを以下に紹介します。

1、新陳代謝が活発になる(組織の活性化)

2、血行が盛んになる(血管の拡張と血管内腔の浄化)

3、痛みが和らぐ(脳内モルヒネの分泌)

4、免疫力が高まる(全身的には白血球・リンパ球の増加と副腎皮質ホルモンの分泌などが挙げられ、局所的には刺鍼部の免疫応答物質の集合が証明されている)

5、抗ヒスタミン作用(風邪や喘息の時に気管の収縮を抑える)

6、α(アルファ)波の誘発(瞑想中や坐禅中にあらわれる心地よい脳波の状態を作り出す)

7、凝って硬くなった筋肉などをほぐす(血行促進効果とは違った観点で、刺した鍼を抜くときに既に凝りが和らいでいるのは物理的な刺激によるものと考えられます)

この鍼灸医学の効果を西洋医学で解明、説明しようとする試みは始まったばかりです。しかし、根本的な哲学というか、背景になる文化が違う2つの医学、西洋医学と鍼灸医学を同じ土壌、つまり、西洋医学的視野で効果を判定しようとすることに矛盾や無理があるように感じてなりません。西洋医学が身体のことを解明できている割合は、せいぜい20%くらいではないでしょうか?解明されていないことの方が多いのが現実です。そんな中で鍼灸医学の効果を判定するには、大規模な統計的手法、つまり、2重盲比較試験を行うしかないでしょう。

その流れがEBM=Evidence Based Medicine党考え方です。EBMとは根拠に基づいた医療ということです。EBMについてWikipediaから引用します。


EBM:根拠に基づいた医療

根拠に基づいた医療あるいはエビデンスに基づく医療(EBM: Evidence-based Medicine)とは、医療に科学的手法を取り入れようとする運動のひとつである。医療行為における治療法の選択などにあたっては、理論や経験や権威者の判断ではなく、確固とした疫学的証拠に基づき、科学的に最良の判断をすべきであるという考え方を最大の特徴とする。中国語では、循証医学、実証医学、証拠医学などと訳されている。
いわば、医療を経験や勘による職人の世界から、検証可能な科学の世界へ移行させようという試みともいえよう。

概念

すべての医療行為は医学的判断に基づいて行われる。従来、この判断は多くの部分を医療者の経験や権威者の提言、あるいは生理学的原則・知識に基づいた判断に従って下されており、治療者や国によって治療法が違うのも当然である、といった状況が長く続いてきた。

権威がものをいう例としては「この治療法はこの病院で100例以上の実績があって良好な成績を収めた」、「有名人の誰それがこのダイエット法で10kg痩せた」といった判断がある。また、生理学的判断の例としては、「緑茶は実験室にて抗菌作用や抗酸化作用が示されたため健康に良い」「カルシウムを多く含む食品を多く食べることで骨が丈夫になり骨折のリスクが減らせる」といったものがある。この程度の「理由付け」による価値判断は、マスコミや一般向けウェブサイトに溢れている。また従来、医療従事者にとっての価値判断もこのようなものでしかなかった。

しかし1990年代より、治療法の選択などについては、正当性は厳格にコントロールされた実験結果で示すべきであるという議論が高まってきた。米国で始まり世界に広がったこの動きはEBM(Evidence-based Medicine)と呼ばれ、日本では根拠に基づいた医療と訳される。

このEBMは、通常行われている診療行為自体を、批判的な立場に立って見直すものである。最も大きな特徴としては、権威や個人の経験によらないのみならず、生化学的、あるいは生理学的な研究によって得られた知識や説明すらも重視せず、無作為的な大規模実験の結果を、「根拠」として最重視することにある。

すなわち、EBMに言う最も有効な「根拠」とは、実際の臨床試験による最終成績の改善、という証拠のことである。何らかの結果を説明するための単なる「理由づけ」や、実験室での結果・単なる症例報告、といった程度のものは、EBMにおける「根拠」としては、はるかに低い位置にランクされる。臨床実験は、適切に症例を集め、適切にデザインをし、適切に運用したものであることが求められ、通常は無作為二重盲検法が、信頼性、客観性のある手法として求められる。医療従事者の間では、敢えて誤解を招きやすい「根拠」の語は使わず、エビデンスと外来語の表記のままに言うことが多い。

無作為二重盲検法

信頼性のある「エビデンス」として有効性が広く認められる臨床試験を行うためには、通常は無作為割り付け比較試験(むさくいわりつけひかくしけん、randomized controlled trial)が取られる。これは試験対象の薬と対照となる介入の間で比較対照実験を行うときに使われる手法である。
「無作為」とは対象群を、治療群と非治療群等のグループに全くランダムに割り振ることである。これは「ダブルブラインド試験」とは意味が異なっており,「ダブルブラインド(二重盲検化)」とは、患者自身も処方する側(医師)も、対照薬を使っているのか本物の薬を使っているのか知らない状態で試験を行うことである。これによって、医師側の「この人は対照薬だから症状が改善しないはずだ」といった思いこみや、患者側の「この薬は本物のはずだから症状が良くなるはずだ」といった思いこみ(プラセボ効果)によるバイアス(偏り)を排除し、客観的な研究結果を出すことが出来る。

もちろん、あらゆる治療法について二重盲検法が可能なわけではない。手術の2つの術式でどちらが有効かを決める際には、無作為化は可能であっても二重盲検法をとることは事実上不可能である。



「根拠に基づいた医療」の成果を端的に示すエピソードのひとつに、心筋梗塞後の抗不整脈薬の使用についてのCAST studyがある。心筋梗塞は急性期が過ぎてから合併する不整脈が時として致死的となるため、抗不整脈薬が有効であるという理論、予測が従来からあり、抗不整脈薬が予防的に投与されていた。どのグループの薬剤がもっとも効果的かを調べるため、無作為二重盲検法による臨床実験が行われた。しかし中間報告で最も死亡率の低いのは薬剤非投与群だったことが判明。これ以上投与を続けることは危険として、試験の一部が打ちきりとなったものである。

展望

「根拠に基づいた医療」に則った考え方は徐々に浸透し、有効なエビデンスを集積した論文集や教科書が出版されるようになった。当初はエビデンスのある治療法はごく少数しかなかったが、現在では3割を超えたという報告もあり、医療機関における治療方法の差も縮まってきている。

しかし、あらゆる治療法、あるいはあらゆる治療法の組み合わせについて臨床試験を行うことは不可能であるため、現在の最良のエビデンスを用いつつも、目の前の患者に対しどのように妥当な判断を下していくかについては、医療従事者の手腕や経験・知識が問われる状況であることに違いはない。医療は実業であり、医学は実学である。根拠に基づこうと基づくまいと、患者を治す医療が良い医療である。

EBMとは単に大規模臨床試験において結果の良かったほうの選択肢を選ぶことではなく、エビデンスに対して批判的吟味を加えた上で、目の前に患者にどう適応するか熟考する所まで含めて、初めてEBMとなる。

また、最近ではリハビリテーション領域において新しいEBM(SCEBR)が構築されてはじめている。

以上が引用ですが、鍼灸医学のメカニズム解明も大切ですが、まずは、大規模なEBMをとる研究が求められています。

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